茶道による人間関係の構築:日本式のサービスとは
茶道を学ぶとき、点前(てまえ:抹茶をたてるための作法)を覚えることがすべてだと考える人がいます。しかし、点前と呼ばれる作法に従ってお茶をたてるのは、最終的な到達点ではありません。
これらは基本となるものであり、そこから「茶会に合った掛け軸を選ぶ」「季節の花を入れる」「茶碗や漆器などの道具を見る目を養う」などができるようになる必要があります。さらに、茶室の構造や建築にも精通しなければいけません。
このように考えると、極めようとするほど茶道には勉強すべきものが膨大にあることに気がつきます。茶道は総合芸術ともいわれますが、これは日本の伝統文化がすべて詰まっているためでもあります。
茶道で重要となる人間関係の考え方
それでは、先に挙げたような知識を身に付けて実践することが茶道なのでしょうか。もちろん、そうではありません。
あなたも、知識だけをもっていて見せびらかそうとする人を信頼しないのと同じように、単に勉強すれば良いわけではないのです。これら茶道の作法や芸術的な要素は、すべて「人間関係」に行き着くものであると考えなければいけません。
少し強引に考えると、茶会を開くときに「人同士が楽しく触れ合う場」を作り出すことができれば、それだけで十分であるといえます。
そのための考え方が、茶道には詰まっています。「客が訪れる前から、露地を清める」「茶会の主旨や招く客のことを考えながら、茶室に飾る掛け軸を考え、出す料理を工夫する」などを茶道では行います。相手が望むことを、何を言われなくても実践するのです。
知識を付けるのが茶道ではなく、これらの知識の中から「相手が喜ぶためには何を行えば良いのか」を考えることが茶道であるといえます。
終わりがない日本式のサービス
茶道をみれば、日本で行われているサービスの本質が見えてきます。まず、茶道ではいわゆる上下関係がありません。亭主と客は対等の関係にあります。
一般的なサービスであれば、マニュアル化されたものがあります。そして、ここには上下の関係があります。店側はできるだけ客の要望に応えることに重きを置き、客もお金を支払っているのだからと文句をいいます。
そして、お金のやり取りだからこそ、ある程度の「区切り」が設けられます。例えば、「このサービスを受けるには、追加料金が必要」などです。支払う金額によって、サービス内容が決まってしまうのです。
欧米で行われるチップがこの典型です。ホテルで荷物を運んでもらったり、部屋の掃除をしてもらったりするだけでチップが要求されます。しかし、これは本質的なサービスとはいえません。
確かに、チップを「素晴らしいパフォーマンスをしてくれた対価」と捉えることはできます。しかし、日本ではチップという考えが存在しません。客に対して、最初から最高のパフォーマンスをするのが当たり前であると日本では考えるからです。
茶道では、無言で相手が望むことを行い、静粛の中でコミュニケーションが行われます。これと同じように、旅館など日本の宿泊施設に泊まったとき、荷物を部屋までもってきてくれたり、部屋の形を整えたりしてくれます。これは、客が喜ぶであろうサービスを自ら行いたいため実行するのです。
西洋と違うのは、このときに「チップを要求することがない」という点が挙げられます。相手が喜ぶから行っているのであり、お金のやり取りとは関係なく行うサービスが日本式なのです。
そういう意味では、日本式のサービスに終わりはありません。例えば、学習塾で生徒が理解していないとき、生徒が完全に分かるまで付き合うのが日本式です。
敢えて時間に区切りを付けず、日本では夜中になってまで生徒に付き合う学習塾の先生は多いです。そして、そちらの方が生徒や保護者は満足します。このときに追加料金を徴収することはありません。同じような光景は、日本式サービスの色合いが濃い「旅館」や「料亭」でも見ることができます。
日本で行われているサービス様式を観察すると、茶道と深く結びついていることが分かります。日本の伝統として古くから行われている茶道は、日本人の性質や文化と深い関わりがあるのです。
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