有機化学では電子の状態を見極めることが重要です。電子の動きによって、有機化合物同士の反応が起こるからです。

ただ大学など高度な学術機関で有機化学を勉強するとき、多くの人で理解できないものに電子軌道があります。高校生などで学ぶ電子軌道の考え方とまったく違うため、混乱する人が非常に多いという理由があります。

s軌道やp軌道について学ぶ必要があり、これら電子軌道が何を意味しているのか理解しなければいけません。またs軌道とp軌道を理解すれば、sp3混成軌道、sp2混成軌道、sp混成軌道の考え方が分かってくるようになります。

高校化学と比較して内容がまったく異なるため、電子軌道について学ぶとき、高校化学の内容をいったん忘れましょう。その後、有機化学を学ぶときに必要な電子軌道について勉強しなければいけません。

電子は原子の周辺を回っていない

高校化学を勉強するとき、すべての人は「電子が原子の周囲を回っている」というイメージをもちます。惑星が太陽の周りを回っているのと同じように、電子が原子の周りを回っているのです。

以下のようなイメージを有している人がほとんどです。

しかし、これは正しくないです。このイメージを忘れない限り、s軌道やp軌道など、電子軌道について正しく理解することはできません。

電子軌道とは「電子が存在する確率」を示します。例えば水素原子では、K殻に電子が入っています。ただ、本当にK殻に電子が存在するかどうかは不明です。もしかしたら、K殻とは異なる別の場所に電子が存在するかもしれません。

ただ全体的に考えれば、水素原子にある電子はK殻に存在する確率が高いというわけです。

電子軌道で存在するs軌道とp軌道(d軌道)

惑星のように原子の周囲を回っているのではなく、電子は雲のようなイメージで考えたほうがいいです。雲のようなものが存在し、この中に電子が存在します。電子が存在する確率であるため、場合によっては電子軌道の中に電子が存在しないこともあります。

そうしたとき、電子軌道(電子の存在確率が高い場所)はs軌道とp軌道に分けることができます。それぞれの軌道には、電子が2つずつ入ることができます。

s軌道は球の形をしています。この中を電子が自由に動き回ります。s軌道(球の中)のどこかに、電子が存在すると考えましょう。水素分子(H2)では、2つのs軌道が結合することで、水素分子を形成します。

一方でP軌道は、数字の8に似た形をしています。s軌道は1つだけ存在しますが、p軌道は3つ存在します。以下のように、3つの方向に分かれていると考えましょう。

K殻はs軌道だけを保有します。そのため、電子はs軌道の中に2つ存在します。一方でL殻は1つのs軌道と3つのp軌道があります。合計8個の電子をL殻の中に入れることができます。

なおM殻では、s軌道やp軌道だけでなく、d軌道も存在します。ただ有機化学でd軌道を考慮することはほとんどないため、最初はs軌道とp軌道だけ理解すればいいです。d軌道は存在するものの、忘れてもらっていいです。

混成軌道とは?混成軌道の見分け方とエネルギー

電子軌道の中でも、s軌道とp軌道の概念を理解すれば、ようやく次のステップに進めます。混成軌道について学ぶことができます。

すべての物質は安定した状態を好みます。人間であっても、砂漠のど真ん中で過ごすより、海の見えるリゾート地のホテルでゆっくり過ごすことを好みます。エネルギーが必要な不安定な状態ではなく、安定な状態で過ごしたいのは人間も電子も同じです。

s軌道とp軌道を比べたとき、s軌道のほうがエネルギーは低いです。そのため電子は最初、p軌道ではなくs軌道へ入ります。例えば炭素原子は電子を6個もっています。エネルギーの順に考えると、以下のように電子が入ります。

しかし、この状態では分かりにくいです。s軌道とp軌道でエネルギーに違いがありますし、電子が均等に分散して存在しているわけではありません。

そこで実在しないが、私たちが分かりやすいようにするため、作り出されたツールが混成軌道です。本来であれば、s軌道やp軌道が存在します。ただこれらの軌道が混在している状態ではなく、混成軌道ではs軌道もp軌道も同じエネルギーをもっており、同じものと仮定します。

混成軌道ではs軌道とp軌道を平均化し、同じものと考える

混成軌道を利用すれば、電子が平均化されます。例えば炭素原子は6つの電子を有しているため、L殻の軌道すべてに電子が入ります。

有機化合物を理解するとき、混成軌道を利用し、s軌道とp軌道を一緒に考えたほうが分かりやすいです。同じものと仮定するからこそ、複雑な考え方を排除できるのです。

混成軌道の見分け方は手の本数を数えるだけ

ここまでがs軌道やp軌道、混成軌道に関する概念です。ただ混成軌道は1つだけ存在するわけではありません。3つの混成軌道があります。それぞれ以下になります。

  • sp3混成軌道
  • sp2混成軌道
  • sp混成軌道

これらの混成軌道はどのようになっているのでしょうか。性質が異なるため、明確に見極めなければいけません。

しかし、それぞれの混成軌道の見分け方は非常に簡単です。それは、手の数を見ればいいです。原子が保有する手の数を見れば、混成軌道の種類を一瞬で見分けられるようになります。まとめると、以下のようになります。

sp3混成軌道sp2混成軌道sp混成軌道
4本の手3本の手2本の手

これを理解するだけです。それぞれの混成軌道の詳細について、以下で確認していきます。

sp3混成軌道:メタンやエタンなど、4本の手をもつ化合物

sp3混成軌道を有する化合物としては、メタンやエタンが例として挙げられます。メタンやエタンでは、それぞれの炭素原子が4つの原子と結合しています。炭素原子から4つの腕が伸びており、それぞれの手で原子をつかんでいます。

4本の手をもつため、メタンやエタンの炭素原子はsp3混成軌道と分かります。

sp3混成軌道では、1つのs軌道と3つのp軌道が存在します。安定な状態を保つためには、4つの軌道はそれぞれ別方向を向く必要があります。電子はマイナスの電荷をもち、互いに反発するため、それぞれの軌道は最も離れた場所に位置する必要があります。

その結果、sp3混成軌道では結合角がそれぞれ109.5°になります。

このような形で存在する電子軌道がsp3混成軌道です。

アンモニアなど、非共有電子対も手に加える

注意点として、混成軌道を見分けるときは非共有電子対も含めます。特定の分子と結合しているかどうかだけではなく、非共有電子対にも着目しましょう。

例としては、アンモニアが頻繁に利用されます。アンモニアの分子式はNH3であり、窒素原子から3つの手が伸びており、それぞれ水素原子をつかんでいます。3本の手であるため、sp3混成軌道ではないのではと思ってしまいます。

ただ窒素原子には非共有電子対があります。混成軌道の見分け方では、非共有電子対も手に含めます。以下のようになります。

このように考えて非共有電子対まで含めると、アンモニアの窒素原子は4本の手が存在することが分かります。アンモニアがsp3混成軌道といわれているのは、非共有電子対まで含めて4つの手をもつからなのです。

アンモニアがsp3混成軌道であることから、水もsp3混成軌道です。水の分子式は(H2O)です。水の酸素原子は2本の手を使い、水素原子をつかんでいます。これに加えて、非共有電子対が2ヵ所あります。そのため、水の酸素原子はsp3混成軌道だと理解できます。

sp2混成軌道:エチレン(エテン)やアセトアルデヒドの結合角

一方でsp2混成軌道はどのように考えればいいのでしょうか。sp3混成軌道に比べて、sp2混成軌道は手の数が少なくなっています。sp2混成軌道の手の本数は3つです。3本の手を有する原子はsp2混成軌道になると理解しましょう。

例えば、sp2混成軌道にはエチレン(エテン)やアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ボランなどが知られています。

エチレンの炭素原子に着目すると、3本の手で他の分子と結合していることが分かります。これは、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド、ボランも同様です。

sp2混成軌道では、ほぼ二重結合を有するようになります。ボランのように二重結合がないものの、手が3本しかなく、sp2混成軌道になっている例外はあります。ただ一般的には、二重結合があるからこそsp2混成軌道を形成すると考えればいいです。

3本の手を伸ばす場合、これらは互いに最も離れた結合角を有するように位置します。その結果、sp2混成軌道では結合角が120°になります。

120°の位置でそれぞれの軌道が最も離れ、安定な状態となります。いずれにしても、3本の手によって他の分子と結合している状態がsp2混成軌道と理解しましょう。

sp混成軌道:アセチレンやアセトニトリル、アレンの例

混成軌道はどれも、手の数で見分けることができます。sp混成軌道では、sp2混成軌道に比べて手の数が一つ減ります。sp混成軌道は手の数が2本になります。

sp混成軌道を有する化合物では、多くで二重結合や三重結合を有するようになります。これらの結合があるため、2本の手しか出せなくなっているのです。sp混成軌道の例としては、アセチレンやアセトニトリル、アレンなどが知られています。

アセチレンの炭素原子からは、2つの手が出ています。ここから、sp混成軌道だと推測できます。同じことはアセトニトリルやアレンにもいえます。

2つの手が最も離れた距離に位置するためには、それぞれ180°の位置になければいけません。左右対称の位置に軌道が存在するからこそ、最も安定な状態を取れるようになります。

もちろんsp混成軌道とはいっても、他の原子に着目すればsp混成軌道ではありません。例えばアセトニトリルでは、sp3混成軌道の炭素原子があります。アレンでは、sp2混成軌道の炭素原子があります。着目する原子が異なれば、混成軌道の種類も違ってきます。

このように、原子ごとに混成軌道の種類が異なることを理解しましょう。

これら混成軌道の考え方を学べば、あらゆる分子の混成軌道を区別できるようになります。例えば、二酸化炭素の混成軌道は何でしょうか。二酸化炭素(CO2)はO=C=Oという構造式です。炭素原子に着目すると、2本の手が出ているのでsp混成軌道と判断できます。

混成軌道はすべて、何本の手を有しているのかで判断しましょう。

分子の形(立体構造)が混成軌道で重要

それでは、これら混成軌道とはいったいどういうものなのでしょうか。分かりやすく考えるため今までの説明では、それぞれの原子が有する手の数に着目してきました。

より厳密にいうと、混成軌道とは分子の形になります。つまり、立体構造がどのようになっているのかを決める要素が混成軌道です。

sp3混成軌道の場合、正四面体形の形を取ります。結合角は109.5°であり、4つの軌道が最も離れた位置を取ります。その結果、自然と正四面体形になるというわけです。

一方でsp2混成軌道の結合角は120°です。3つの軌道が最も離れた位置になる場合、結合角は120°です。またsp混成軌道は分子同士が反対側に位置することで、結合角が180°になります。

こうした立体構造は混成軌道の種類によって決定されます。

先ほど、非共有電子対まで考える必要があるため、アンモニアはsp3混成軌道だと説明しました。しかしアンモニアの結合角は107.5°であり、理想的な結合角である109.5°ではありません。同じように、水(H-O-H)の結合角は104.5°であり、109.5°ではありません。

そのため厳密には、アンモニアや水はsp3混成軌道ではありません。これらの分子は混成軌道では説明できない立体構造といえます。ただ深く考えても意味がないため、アンモニアや水は非共有電子対を含めてsp3混成軌道と理解すればいいです。

s軌道とp軌道を学び、電子の混成軌道を理解する

高校化学から卒業し、より深く化学を学びたいと考える人は多いです。そうしたとき有機化学のあらゆる教科書で最初に出てくる概念がs軌道とp軌道です。また、混成軌道についても同時に学ぶことになります。

しかし電子軌道の概念は難しいです。高校化学で学んだことを忘れる必要があり、新たな概念を理解し直す必要があります。また軌道ごとにエネルギーの違いが存在しますし、混成軌道という実在しないツールを利用する必要もあります。

ただ一つずつ学んでいけば、難解な電子軌道の考え方であっても理解できるようになります。

有機化学の中でも、おそらく最も理解の難しい概念の一つが電子軌道です。それにも関わらず、教科書の最初で電子軌道や混成軌道について学ばなければいけません。有機化学を嫌いにならないためにも、電子軌道についての考え方を理解するようにしましょう。